世界にたった一台! 旧日本陸軍の幻の金庫やNHKのドラマでも使用されたイギリス製の金庫が下町に現存。金庫と鍵の博物館取材探訪記

墨田区の事業に指定された小さな博物館

東京の下町、墨田区森下の大通りの裏手にひっそりと佇む金庫と鍵の博物館。こちらは墨田区が提唱する「すみだ3M(スリーエム)運動」という、1985(昭和60)年にスタートした墨田区の産業PRとイメージアップ、地域活性化を図る事業に指定された小さな博物館(Museum)です。墨田区では博物館に加え、工房と店舗の機能を備えた、製造と販売が一体化した「工房ショップ」(Manufacturing shop)、付加価値の高い製品を創る技術者である「マイスター」(Meister)の三つの頭文字をとって「3M(スリーエム)運動」と呼んでいます。

大正時代から続く金庫店の三代目であるご主人が杉山泰史さん。テレビや新聞などで何度も紹介されていますので、ご存知の方もいらっしゃるのでは。日本における錠前研究家の第一人者で伝説の鍵師であった先代のコレクションを受け継ぎ、電話で予約された方限定で土日に公開しています。普段は杉山金庫店として、開かなくなった金庫の解錠はもちろん、鍵の製作や解錠、金融機関の金庫のメンテナンスなどの仕事を主にしているそうです。

実際に訪れてみると金庫と鍵の博物館は小さな博物館というだけあって、事務所の一角(というか大半)を占める小さなスペース。このスペースに所狭しと金庫や鍵などの所蔵品が並べられています。他にもあるそうですが、スペースの都合ですべて置けないんだとか。金庫は重いし場所を取りますからね…。

超お宝! 世界に一台しかない旧日本陸軍の幻の金庫

こちらで一番のお宝が世界に一台しかないという昭和12年製造の旧日本陸軍の幻の防盗金庫。30台だけ製造され、現存が確認されているのはこの一台のみとのこと。処分されてしまったものがほとんどだと思われますが、もしかしたら戦後すぐにGHQあたりに接収されたものもあるかもしれません。これは先代社長が手に入れたもので、その来歴も面白い。

この金庫の前の持ち主は同業者でした。昭和30年くらいの話でご主人も詳しくは聞いていないそうですが、払下げされたかした金庫を持っていた同業者の元に先代が何度も通って譲ってもらったそう。その人は貴重な陸軍の金庫だとは知らなかったそうで、先代もそれを教えなかったとか。もしそれを知っていたらかなりの金額を吹っ掛けられたかもしれませんね。金庫マニアだけでなく、ミリタリーマニアにも垂涎の超お宝と言えるでしょう。

重さは300~350㎏くらいではないかとのこと。標準よりは重いけど、それほど特殊でもないそうです。が、やはり当時の最高機密文書を保持する金庫だけにセキュリティレベルはマックス。50個のボタンのうち、5個を押すと開く仕組みで、他に錠前とダイヤルも付いています。ボタンの組み合わせだけで約200万通りで、今はボタンの数字を押すだけで開くように設定されているそうです。

この金庫を部外者が開けようとしたらどれほど大変なのでしょうか? まず50個のボタン5個すべてを正しく押しても、ひょっとこ錠(西洋でいうブラマー錠。ルーブル美術館でも使用されていたそう)を壊さずに金庫を開けるのはほとんど不可能らしい。複数の方向に高さの違う刻みが入っているため、構造が複雑で合鍵の製造にも手間がかかるため、基本的にこの錠については“破錠”(はじょう=壊すこと)しかないそうです。

仮にこのセキュリティを突破しても約100万通りあるダイヤルの数字を合わせなければ金庫は開きません。どんだけスゴかったんだ、80年前の我が国は! 現在の金庫の最高レベルと言われるガードマックス(クマヒラ)と比べても遜色がない性能です。

その他スパイ防止のため、金庫内の円盤に開けた回数ごとに目盛りが一つ動く機能が付いています。つまり、担当者が前に開けたときの数字を覚えておいて、次に開けたときに数字が一つ以上動いていたら誰かが金庫を開けた、ということで「スパイは誰だ!」となるワケです。この金庫でミステリーを書けそう、と思ったら、すでに存在するそうです。

超人気ライトノベル『ビブリア古書堂の事件手帖』にも登場!

映画化やドラマ化もされた超人気ライトノベル『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫/三上延)にこの金庫をモチーフにした話が登場します。この金庫を開けてくれたら江戸川乱歩の膨大なコレクションを売ってもいい、というある依頼に様々な謎が絡んでくるというストーリー。テレビドラマでは第10話に収録されています。

出版社から連絡があり、編集者と作家さんが一緒に取材におとずれたそうで、どんな作家が来るか知らなかったご主人は、名前を聞いてびっくりしたそう。50個のボタンのうち5つの番号を打ち込み(この番号は分かっているという設定)、錠前とダイヤルを開けるという内容はほぼこの金庫の仕組みそのまま。ご主人のお姉さんがこの作家さんの大ファンだそうで、文庫が発売されるとすぐに「あの金庫じゃない?」と連絡があったそうです。第二次世界大戦当時のスパイ小説でも使えそうですね(笑)。

古いところでは、デビューしたての宮部みゆきのミステリー『魔術はささやく』にもこちらで取材された金庫が登場しているそうです。この作品は1989年日本推理サスペンス大賞を受賞しますが、当時はまだ新人作家のひとりでした。ちなみに彼女は深川生まれ(『本所深川ふしぎ草紙』は有名ですね)なのでここ森下とはご近所さんです。

NHKのドラマでは実際にこちらの金庫を貸し出して使用

ドラマに使用された金庫といえばイギリスの有名な金庫メーカーCHUBB(チャブ)の金庫。金庫の壁が分厚く、しかも一枚板の鉄ということでどんなドリルを使っても穴をあけることはできないそうです。

この金庫がドラマで使用されたのはNHKの『君を見上げて』(原作・山田太一)。読売新聞で連載された小説のドラマ化で、山田先生自ら取材に訪れたそうです。難しい鍵を開けることが生きがいだという小柄な高野章二(森田剛=Ⅴ6)と慎重180センチを超える大柄な小坂瑛子(未希)のラブストーリーで、最終話で開ける金庫にこのCHUBBの金庫が実際に使用されました。その際、ご主人も演技指導ということで、彼に仕草や動きを教えたそうです。

鍵師のドラマなどで、他にもアドバイザーとしての依頼が来たことがあったそうですが、“20代の天才鍵師”という設定に、「そんな鍵師はいないし、気持ちも分からない」と断ってしまったそう。鍵師というのは長年の勘とテクニックがいる職業ではありますが、なかなか頑固なオヤジです(笑)。

バラエティやラジオへの出演も多数

バラエティなどでも数多く取材を受けているそうです。「タモリ俱楽部」や「マツコ&有吉の怒り新党」など人気番組ばかり。とはいえすべてのマスコミ関係の取材などを受けているわけではなく、先ほどのドラマもそうですが、ADなどからの電話が失礼だったりすると断ることも多いらしい。その辺も下町の頑固オヤジ的な一面が垣間見えます。お店の宣伝になるから、普通は取材とか受けますよね。

テレビの企画などではやる気のないタレント(男性アイドル系が多いらしい)もいれば、鋭い指摘をする芸人さんもいたりと色々のようで。下町のボンボンキャラの某芸人さんは、どこで調べたの?というくらい詳しくて感心したそう。毎日のようにロケをしていても、下調べをしっかりしているのは好感が持てますね。その時はきっとお札ではなく、普通のハンカチを使ったんだろうなぁ。安住さんのラジオ番組に出演したこともあるそうで、あっという間の30分だったとのことです。さすが人気ナンバーワンアナウンサーです!

一見木製家具に見えるこの金庫の秘密とは?

世界中の金庫があるこちらの博物館ですが、金庫といえば基本的にはがっしりした金属製のイメージ。そこで目を引くのがフランスのフィッチェというメーカーの金庫。こちらも陸軍の金庫と同じくらいの時期に作られた物です。一見木製の洋風ダンスにしか見えませんが、れっきとした金庫。しかも二つある鍵穴はいずれもダミー。さて、一体どうやって金庫を開けるのか? 皆さんも続きを読む前に画像をじっくり見て推理してみてください。

チッチッチッ…チーン!

というワケで正解は上段の枠の左下の切れ目を下にズラすです。これをずらして出てくる鍵穴に差し込むと見事金庫が開きます。しかもかなり力を入れないと動かないので、子供や女性には難しい作業です。それにしてもドアの分厚さ。これぞ金庫といった感じです。お部屋のインテリアとしてもいかにも金庫という見た目じゃないのがいいですね。

タレント以外では修学旅行生も訪れる穴場スポット

取材慣れしているご主人ですが、意外なところでは、ALSOKの広報誌で連載企画をしていたそうです。同社と契約している家庭などに年に4回配布される冊子で4年以上にわたって連載され、現在でも同社HPの『鍵ものがたり』で見ることができます。セキュリティのメーカーだけに、様々な種類の鍵を歴史や使い方を詳しく紹介していますので、興味がある方は調べてみてください。

この企画はかなり好評だったようで、当初4回の予定がどんどん伸びていきました。中には鍵の仕組みとか構造など、素人(まあ同社のシステムを契約している方ですが)が知らなくていいことまで教えてしまうようなエピソードなどもあったため、お蔵入りしたものもあったそうです。泥棒を利するようなネタは出せませんよね…。

他には地方からの修学旅行生などが班別行動で博物館を訪れることもあるそうです。神社仏閣めぐりや江戸時代の史跡めぐりとかはありがちですが、鍵と金庫について学ぶというのはかなりマニアック。もちろんグループ全員が興味があって訪れるわけではないでしょうが、最後にはみんな喜んで帰っていくそうです。一般の方でも旦那がこういうの好きだからとご夫婦で来てみたら、奥さんの方がハマった、といったこともよくあるそう。そういった方が来ると仕事冥利につきるんだとか。ご主人は心から鍵や金庫が好きで、プライドを持って仕事をしているんだなぁと実感した次第です。

先代が徳川家の婚礼調度類の鍵を開け国宝に指定!

先代のエピソードですが、徳川美術館収蔵のお宝の鍵を開けたことがあるそうです。三代将軍家光の長女初音の寛永十六年(1639)の嫁入り道具「初音の調度」がそれで、重要文化財に指定されていた婚礼調度類のうち、鍵が紛失したかで開かなくなった胡蝶蒔絵掛硯箱(こちょうまきえかけすずりばこ)の解錠に成功。中から貴重な調度品が多数出てきたそうです。それがきっかけなのか、平成8年(1996年)に国宝に指定されました。まさに日本の歴史の登場人物になったと言えるエピソードではないでしょうか。

当日名古屋にある美術館に到着すると、マスコミが多数取材に来ていて何も聞いていなかったご主人と先代はびっくりしたそう。これは地元マスコミだけでなく、NHKなど全国ニュースでも取り上げられたので、覚えているという方もいるのでは。

ちなみに当時の毎日新聞では“開錠”という表記になっていますが、今回の記事では鍵などを壊さずに開ける“解錠”という表記を使用しています。“開錠”ですと、壊してでも開けるという意味で使われることが多いようです。どうしても開かないドアを壊して開ける場合などですね。

ご主人も先代の技術を継承して某美術館の所蔵品を解錠!

時を経て、先代が亡くなった後、ご主人に某美術館から同様の依頼が舞い込みました。鍵がなくなってしまった古い箱(諸事情により詳細は伏せさせていただきます)を箱や鍵穴を傷つけることなく開けてほしいというもの。いわゆるピッキングで開けようとした鍵師さんたちは全員お断りされたそうです。どうしても傷がついてしまいますからね。

ご主人は先代と一緒に行った徳川美術館のことを思い出しながら、何度もその美術館に通い、試行錯誤を繰り返しながらゼロからその箱に合うよう鍵を作成したそうです。なんだかんだで3か月くらいかかったらしく、鍵開けに費やした時間としては過去一番長いとのこと。まさに杉山金庫店主人にしかできない一子相伝の技術といっても過言ではないですね。

金庫に耳を当てて音を聞きながらダイヤルを回して開けることは一切ない!

よくドラマに出てくる金庫に耳を当てて、ダイヤルを回し、その音を聞きながら数字を合わせるという、いわゆるさぐりで開けるシーンがありますが、ご主人によると「音を聞きながらダイヤルを回して開けることは一切ない!」ということです。セキュリティの問題もあるので、細かいことは教えてもらえませんでしたが、同業者が開けられなかった金庫がご主人にお鉢が回ってくる“プロのためのプロ”だけに独自のノウハウがあるようです。現在はビジネス教育連盟の鍵師養成コースの講師も担当していらっしゃいます。今年のGWにはこちらの講師としての杉山さんが「羽鳥慎一モーニングショー」で紹介されました。

上記のような美術館だけでなく、全国には鍵を開けたいけど開けられないお宝が多数眠っていると思います。この記事を読んで、うちの金庫や実家の箱の鍵を開けてほしいと思われた方はぜひ杉山金庫店に連絡してみてください。連絡は平日の日中に。博物館の予約は8月を除く第一第三の土日のみとなっています。もちろんご主人の都合もありますので、日程によっては受けられないこともあることを記しておきます。

鍵開けはプロの技術と専門のツールを使用した特殊技能! ご理解を

一般的に鍵を開けてほしいという依頼は家(部屋)の鍵がダントツで多いです。なくしたとか置き忘れたとかですね。酔っぱらって帰宅したら鍵がなかったというケースを経験された方もいらっしゃると思います。当社では22時まで電話受付(フリーダイヤル0120-961-976)をしていますが、杉山金庫店では夜はやっていないそうです。なんでも先代が「夜に仕事を依頼されてもロクなことがない」と常々言っていたそうで。酔っぱらってなくした人からの依頼とかで、値切られたり、無理難題を言われるからとか。今のご主人もその教えを守っているそうです。

鍵を開けるという作業はプロの技術と専門の道具や部品などが必要な特殊技能です。鍵は緊急性が特に高いジャンルですから、一分でも早く開けてほしいもの。それで例えば数分で解錠すると、「こんなすぐ開たのにこんなに金額かかるの? 安くしてよ」といったクレームというかお願いをされることが多いのです。気持ちは分かりますが、鍵開けはプロにしかできないのですから、その技術料にお金を払うのは当然のこと。

下手な業者に当たると、トイレ行きたいのに、鍵屋さんがさっきから30分もこねくり回して全然開かない、といった悲劇も生まれます。明日早いからさっさと開けてもらって寝たいのに、という人もいるでしょう。電気などの修理もそうですが、早く終わった方がいいのですから、早く鍵を開ける、早く修理できる業者は技術レベルが高いのです。当社ではそういった全国の技術レベルの高い協力店さんと提携し、少しでも早くこうしたトラブルに対応できるよう努力しております。この辺を理解したうえでご依頼いただけますと、当社としてもより一層困っている皆さまのために頑張れるパワーになります。

最後に宣伝っぽくなってしまいましたが、当社では家や部屋の鍵だけでなく、車の鍵(イモビライザー含む)のトラブルにも対応しております。お困りの際はネットでも電話でもご連絡ください。相談は無料ですし、お近くの協力店から可能な限り即日対応させていただきます。

金庫と鍵の博物館(杉山金庫店)
墨田区千歳三丁目4番1号

開館時間:10:00~17:00
開館日:8月を除く第1・3土日
入館料:無料
※要予約